執筆:酵素株式会社 代表取締役 野尻明宏

TL;DR(要点まとめ)

  • 高齢者の栄養不良(フレイル)は社会課題になっている。
  • 発酵によって「消化吸収が良い」「腸にやさしい」栄養設計が可能。
  • 食事療法と発酵食品を組み合わせることで、健康寿命を支える新しい選択肢が見えてくる。

1. 高齢化社会の栄養課題

日本は世界でもっとも早く高齢化が進む国のひとつです。
問題のひとつが フレイル(加齢による虚弱状態)

  • 食欲が落ちる
  • 消化が追いつかない
  • たんぱく質不足になりやすい

その結果、低栄養から筋力低下、寝たきりリスクへとつながってしまいます。


2. 市場を席巻する「メイバランス」

現在、医療・介護現場では 「メイバランス」 という栄養ドリンクが広く使われています。
高カロリー・高たんぱくで効率的ですが、
「飲みにくい」「人工的な風味」「腸に負担がかかる」
と感じる高齢者も少なくありません。

私も祖父の介護でこれを目の当たりにし、「もっと自然でやさしい選択肢が必要だ」と強く感じた経験があります。


3. 発酵がもたらす新しい栄養設計

発酵の力を活かせば、こうした課題を和らげることができます。

  • たんぱく質の分解:発酵でアミノ酸に分かれ、消化しやすくなる
  • 腸内環境改善:乳酸菌や酵母が腸の働きを助ける
  • ビタミン生成:発酵過程でB群やKなどのビタミンが増える
  • 風味の自然化:甘味や旨味が「自然な味わい」として残る

👉 つまり、「飲みやすさ」「吸収しやすさ」「体にやさしい設計」が同時に実現できるのです。


4. 実用化の方向性

具体的には、こんな商品が考えられます:

  • 発酵プロテイン飲料:大豆や玄米を発酵させ、分解型アミノ酸を豊富に
  • 発酵乳酸菌入り栄養ドリンク:腸内フローラを整えつつ高カロリー補給
  • 地域食材発酵ドリンク:地元の野菜や穀物を使い、栄養と文化を両立

研究としても、

  • 九州大学の「発酵大豆たんぱくの吸収性向上」
  • 韓国の「発酵乳酸菌による免疫調整」
    などがすでに報告されています。

まとめ

  • 高齢化社会では「低栄養」が大きな社会課題。
  • 発酵は「消化吸収の良さ」「腸内環境の改善」で大きな強みを持つ。
  • メイバランスに代わる、自然で持続的な栄養ドリンクの開発余地がある。

私は「命を支える産業をつくる」という思いから、このテーマを本気で追求したいと考えています。
発酵は、未来の高齢者を支える“やさしい栄養”になるはずです。


執筆者プロフィール

野尻 明宏(のじり・あきひろ)/酵素株式会社 代表取締役
経済学部で金融・ESG投資を専攻後、信託銀行に勤務。
家族の介護経験から「争族と栄養問題」に直面し、発酵の道へ。
現在は酵素ドリンクや発酵食品の研究・製造を行い、「自然の力で人の命を支える」活動を続けている。